アビガンの備忘録

 2020年8月現在、新型コロナウイルス(COVID-19)は猛威をふるい、感染者数は日々増加しています。そのなか新型インフルエンザ治療薬ファビピラビル(商品名:アビガン)について首相が「新型コロナウイルスの治療薬として正式承認するにあたって必要となるプロセスを開始する」と表明し脚光を浴びました。そのファビピラビルは今のところ明確な有効性が確認できない報告があるものの、一部では有効性を示す論文も報告され、現状でCOVID-19治療薬の候補であることにかわりはありません。それにしても、なぜ新型インフルエンザ治療薬のファビピラビルがCOVID-19に効く可能性があるのでしょう?

ファビピラビル

 まずは、ファビピラビルがインフルエンザウイルスにどのように作用するかをみていきます。添付文書によれば、ファビピラビルはRNAウイルスに取り込まれ活性体のリボシル三リン酸体に代謝されてRNAポリメラーゼを阻害するとのことです。

アビガンの添付文書より抜粋

でも文章だけで読んでもなかなか理解しづらいですよね。そこで、インタビューフォームにある図も見てみますが…、

アビガンのインタビューホームより抜粋

こちらも、ちょっとややこしい感じがします(著者の脳力的な問題かもしれませんが…)。そこで発想を変えて、そもそもなぜファビピラビルは細胞内に取り込まれるのかから考えます。

 ファビピラビルとRNAの材料になるリボシル三リン酸体の核酸塩基構造を比較すると ファビピラビルと核酸塩基はとてもよく似ています。ウイルスは自分が増殖することに必死なので、多少異なる構造だろうとお構いなしにどんどん増殖のための材料を集めます。つまり細胞はファビピラビルを核酸塩基と間違えて取り込むと考えられます。しかしファビピラビルは本物の核酸塩基ではないから、細胞内で変換されたファビピラビル活性体を核酸塩基活性体と間違えて取り込んだRNAポリメラーゼはRNAを合成できず、結果的にRNAポリメラーゼ阻害を阻害すると考えられます。一方で、通常の生体の細胞では、そこまで増殖に必死ではないのでファビピラビル活性体は異物として区別され、影響は及ばないのではないかと考えられます。

   リボシル三リン酸体の核酸塩基構造

 ファビピラビルと核酸塩基構造の比較

このような作用機序なので、ファビピラビルはRNAウイルス(RNAのみから成るウイルス、自身のRNAの分身をつくって増殖する)全般に効果があるのではないかと推測できます。COVID-19もインフルエンザウイルスと同じRNAウイルスなのでファビピラビルの効果が期待できると考えられているのです。