ポピドンヨードの備忘録

 2020年8月、某知事による記者会見の内容が「ポビドンヨードを含むうがい薬を使用すると、唾液の中の新型コロナウイルスが減少し、他人にうつしにくくなる」と多くの人に解釈され、あっという間に薬局の店頭からポビドンヨード含有うがい液が消えるという現象が起こりました。

 実際の効果の程は今後の研究等の結果を待ちたいところですが、それにしてもなぜ単純に有効成分のヨウ素でなく、ポピドンヨードなのでしょうか? 

 ポピドンヨードの名称は、ポピドンヨードがポリビニルピロリドン(ポピドン)とヨウ素(ヨード)の錯化合物として存在することから、両化合物の名称をくっつけただけのものです。

 ハロゲン族のヨウ素は電子を引っ張る力が強く、ポピドンヨードから発生したヨウ素カチオン(I+)はかなりの電子不足のため、ものすごく電子を欲しがっています。そのため、細菌のタンパク質を構成するアミノ酸のシステイン残基にあるチオール(−SH)などの電子を力ずくで奪い取り酸化させ※)、タンパク質を変質し殺菌効果を発揮すると考えられます。

 では、ポビドンは何のために必要なのでしょうか?ここでとても重要なポイントは、I2は通常の状態では固体で水に溶解しにくく、さらに放っておくと容易に固体から気体に昇華する、非常に扱いづらい性質であることです。だからI2を水に溶けやすくし気体にならないよう捕まえておくために、ポピドンが必要だと推測できます。簡単に言えば、ポピドン=溶解剤ということですね。

 溶解剤としてポピドンが添加されている薬剤は他にもあり、たとえば、エゼチミブとアトルバスタチンの合剤にも溶解剤として添加されているようです。

でもさすがに、「ポビドン〜〜」という薬剤名ではないですが(笑)。

 アトーゼット配合錠の添付文書より抜粋

※)-SHが電子を奪われると一時的に-SIのかたちになり、さらに他の-SHと化学反応し、ジスルフィド結合(-S-S-)となります。-SHから-S-S-となりHが減っているのでるので、酸化されたということになります。(参考⇒