殺菌作用をもつ陽イオン

陽イオン(カチオン)には、殺菌作用をもつものがあります。消臭剤などに含まれている銀イオン(Ag+)や銅イオン(Cu2+)などの殺菌作用による消臭効果は代表例です。また、ポビドンヨードでおなじみのヨウ素(I)の殺菌作用は、Ag+などの金属イオンとならべて説明されることはほとんどありませんが、ヨウ素カチオン(I+)が殺菌作用の本体であると推定できるので、あわせて考えたほうが理解しやすいのではないかと思います。

 カチオンが殺菌や消臭作用をもつ理由は、細菌などの表面が基本的にマイナス電荷を帯びているからです。静電気的な力によって接近したカチオンは、タンパク質の構成成分であるアミノ酸から電子を奪います。例えばシステインのチオール(-SH)から電子を奪い、-S-カチオン のかたちにしたり、I+の場合には更に他の-SHと反応しジスルフィド結合(ーSーSー)を形成したり※)することよりタンパク質を変性させ、殺菌作用を示すと考えられています。

 このような作用をする性質は、どのカチオンにもあるわけではありません。作用機序をみると、殺菌作用を有するカチオンには強く電子を欲しがる性質が必要なことがわかります。電子を強く欲しがる性質は電気陰性度の大きさからわかります。つまり、電子を強く欲しがるカチオンとは、電気陰性度が大きい原子のカチオンということです。具体的には周期表の真ん中より右よりにある原子のカチオンが該当すると考えられます。
 カチオンの作用は細菌などを選んで作用するわけではなく、正常の組織にも作用してしまうので、その点には注意が必要です。例えば殺菌作用があることから注射剤に保存料として添加されているチメロサールは、作用の根本は水銀イオン(Hg2+)と考えられますが、Hg2+自体の使い方を誤れば水俣病の原因物質となったように、有害物質となってしまう例もあります。

※)H原子が奪われる反応なので酸化反応です。I2の殺菌作用は酸化反応である、と説明されているのをよくみかけますよね。